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#4 ドリーマーズアゲン

エロアニメの神様
02 /23 2022
今日は前回のお話につづく
ちょっとしたオマケです。

「……そう言えば神様、
 もう一つ聞きたいんだけど」
「はい、なんでしょう?」
「『エルガイム』最終回の
 サブタイトルって分かる?」

『重戦機エルガイム』
1984年2月から放送された
TVアニメーションです。
監督は富野由悠季さん、
キャラクターと
メカニックデザインは
永野護さん、
制作は日本サンライズさんでした。
そしてその最終回の
サブタイトルは……

「……あら?……あらららら?
 不思議ですね。
 サブタイトルの表記は
 『ドリーマーズアゲン』なのに、
 タイトルコールでは
 『ドリーマーズアゲイン』
 と仰ってます」

ちなみに
このタイトルコールは
ミラウー・キャオ役の
大塚芳忠さんによるものでした。

「そうそう、そうなんだよー。
 これは本来、
 表記を【アゲイン】にして
 発音をネイティブっぽく【アゲン】に
 したかったんじゃないかな?
 って話だよ」
「話ってどなたの話ですか?
 公式な出典は見当たりませんけど……」
「俺の通ってた中学の英語の先生……
 U先生の話」
「中学校の先生に
 そんなこと質問したんですか?
 何でまた?」
「U先生は若い女の先生だったし、
 質問のフリして
 オタクアピールとか
 したかったんだろうなー
 タイトルコールを
 カセットに録音して、
 サブタイトルが書いてある
 アニメ誌の番組表を
 わざわざ切り抜いたりしてさ」
「……それはまた何と言うか
 今聞くとちょっと痛々しい……」
「U先生については、
 実はもう一つ思い出話があるんだ」
「なんです?」

「U先生はその後転任されたんだけど、
 暫く経ってから
 病気で亡くなったっていう噂が
 広まったんだよね」
「あらららら……」
「まだ若いのに可哀想……
 って皆で話してたんだけどさ
 俺らの卒業式に
 そのU先生から
 祝電が届いちゃったのよ」
「えぇっ!?……」
「卒業式で祝電が披露されて、
 最後に
 U先生の名前が読み上げられた時、
 卒業生が一斉にどよめいてさ。
 ただ先生達は一体何のことか
 さっぱり分からないわけ。
 祝電自体は
 ごく普通の内容だったしね」
「ということは……」
「U先生が亡くなったってのは
 全くのデマだったのよ。
 それどころか病気だってせずに
 ピンピンしてたらしい。
 卒業式の後、
 ホームルームで担任から聞いて
 みんな驚いたよ」
「一体どうして
 そんな話になったんです?」
「それが
 さっぱり分からないんだよなー
 デマが広まったのが
 卒業式の随分前だったし、
 どこでどうなって噂が出たのやら
 卒業した後も同期と会うと
 その話がよく出るんだけどさ
 今でも真相は分からないんだよねー
 ネットも携帯も無い時代の話だから」
「おかしな話ですねぇ」
「でもまぁ、
 こうして話のネタになるんだから
 それもいいかなって思うけど」

『うる星やつら』
 『スクランブル! ラムを奪回せよ!!』
 でさ、しのぶが言うじゃない
 『噂なんか半分以上デマよ
  確かなことは
  本人に聞かなきゃわかんないわ
  もっとも、
  聞いてもわかんないことも
  あるけどね』……ってさ。
  あれって結構
  真理を突いてるよなーって思うよ」

『うる星やつら』は
1978年から『週刊少年サンデー』に
連載されていた高橋留美子さんの漫画で
賀島さんが仰っているのは
それを元にしたTVアニメの
オリジナルエピソードです。

1984年春に放送された第105回
『スクランブル! ラムを奪回せよ!!』
は次の第106回
『死闘! あたるVS面堂軍団!!』
との前後篇で、
押井守さんがチーフディレクターを
務めた最後のエピソードでもあります。

「しのぶはあたるの幼馴染で
 面堂に惹かれたりもしてたけど
 それがある程度冷めてからは
 ちょっと達観したキャラに見えて
 それがいいんだよね」
「『うる星やつら』が面白いのは、
 単なるSFドタバタコメディの
 魅力だけじゃなくて、
 純愛とか伝奇とか
 ミステリーとかパロディとか、
 どんな要素でも受け入れられる
 世界観があるからだと思うんだよね。
 キャラクターもすごく立ってるから、
 メイン以外のキャラが主役でも
 成立しちゃうわけだし……」

その後も
賀島さんのオタク話は続きました。
……それにしても、と私は思うのです。
まだアニメ業界で働く前の、
子供の頃に観たアニメや漫画の記憶が、
何十年経っても彼の中に残っていて、
その人格形成や日々の言動に
影響を及ぼしているのです。

アニメーションや漫画というのは、
それだけ素晴らしいモノなのでしょうが
作り手の立場から考えてみると、
それだけの責任がある
とも言えるのでしょう。

賀島さんがそれを
どのくらい自覚しているのか、
私にはまだ分かりません。

#3 パンを焼く

エロアニメの神様
02 /13 2022

時刻は夕刻になっていました。

賀島さんが

ご自宅に戻られるというので、

私もご一緒させて頂きました。

 

秋葉原から

電車を乗り継いで1時間強、

さらにそこから車で10分ほど。

関東地方の一角にある

賀島さんの仕事場兼ご自宅は、

四方を畑に囲まれた

大変風光明媚な場所にありました。


「……何だろう、

 軽くディスられてる気がする」

「私、知りませんでした。

 シナリオライターというお仕事は、

 制作会社にお勤めするわけでは

 ないんですね?」

「そうだよ。

 エロアニメに限った話じゃないけど

 昔からアニメのシナリオライターは

 大体自宅作業だよ」

「住むのにこの町を選んだのは

 何か理由があるんですか?」

「選んだも何も、

 俺は元々この辺の出身だよ。

 母子家庭の一人っ子だから

 親の面倒もみなきゃいかんし、

 家の墓だってあるし。

 今住んでる家を買ったのは、

 結婚して子供が産まれた後だけど」


賀島さんのお宅は

母屋と離れの二棟があって、

母屋の一階には賀島さんのお母様が、

離れには

奥様と娘さん達が住まわれています。

賀島さんは

母屋の二階を仕事場にされていました。


「こういう仕事だから、

 子供たちと一つ屋根の下じゃ

 どうも落ち着かないしさ。

 駅から離れててもいいから、

 二棟あって広めの物件を選んだわけ」

「……ま、昭和の物件だし、

 ガスはプロパン、水道は井戸、

 下水は浄化槽で、

 取柄と言ったら

 広さぐらいのもんだよ」


賀島さんの仕事場は

仮眠スペースもある十畳の洋室と

書籍等が並んでいる

八畳の和室の二間があります。

なるほど確かに広々と……


「……あら?……あららら?」


お部屋は二間とも

背の高い本棚に囲まれて

窮屈にさえ感じます。

雨戸を締め切ったままの窓の前にも

本棚が立っていて

昼間でも明かりが必要なほど

薄暗い部屋でした。


「……子供の頃から集めてたヤツも

 実家から皆持ってきたからなー

 これでも下の娘が産まれた時、

 随分処分したんだけどね」


お部屋にあったのは

コミックスが3407冊、

その他書籍が1141冊、

映画パンフレットが434冊、

DVDが455枚、

CDが403枚、

レコードやビデオや

LDやカセットテープ等々、

夥しい量の収集物でした。


「……凄いな、

 そんな一瞬で数えられるもんなのか。

 さっすが神様」

「神を形容する言葉として、

 全てを能く知る……

 【全知全能】

 と言ったりしますでしょ?

 私達は

 知覚することには長けているのです」

「なるほどなー

 ま、暇があったら

 中身も見てみるといい。

 ここに残してあるのは

 どれも俺のお勧めばっかりだから」

「あら、中身についても

 しっかり把握してますよ?」

「マジで!?」

「はい。

 お疑いでしたら、

 試しに何か聞いてみて下さいな」


溜池ゴローさんの『SEX会話力』

 第一章のタイトルは?」

『セックスのたびに童貞に戻れ』

 ですね」

「おー、合ってる合ってる」


この本は、

賀島さんの机のすぐ隣の棚にあって、

何度も読み返したのが

随分と痛んでいました。


『ルパン三世』

 TVアニメパート2で、

 サブタイトルが入る前にルパンが

 『タイトル!』

 って言っちゃうのは第何話?」

第14話

 『カリブ海の大冒険』ですね」

「そうそう、

 これ子供の頃見てて

 ビックリしたんだよねー

 よく見るとルパンの口は

 ニヤッと笑ってるだけだから、

 もしかしたらアドリブなのかね?」

「さあ、そこまではちょっと……」

「あ、そういうのは分からないんだ」

「どなたかがそのアドリブについて

 文章や映像で語っていれば、

 その内容を知覚できますけど

 記録に残っていない出来事は

 知ることはできないんです」

「なるほど、そういう仕組みか

 つまり形に残っていない

 作品の裏話とかは分からないわけだ」

「はい、

 ですから貴方に色々と教えて頂けると

 とても助かります」


ちなみにこのエピソード、

現在では配信

簡単に視聴できるようです。


「文字じゃなくて台詞とかは分かるかな

 『クリィミーマミ』のOVA

 『永遠のワンスモア』の前半部でさ、

 マミがコンサートの最後に

 舞台から挨拶した台詞は言える?」

「はい、ええと……

『一年間応援してくれたファンの皆さん

 一緒に頑張ったスタッフの皆さん

 私は、マミは最後までわがままでした

 もうお別れの時間です

 本当に、本当に今日までありがとう

 今は、ありがとう以外の言葉は

 見つかりません

 本当に

 ありがとうございましたー!』

「そうそう……

 この後に絶妙なタイミングで

 『デリケートに好きして』

 のサビが来るんだよねー……」

「ちなみにこの部分、

 TVアニメの再編集ですよね?」

「でも音響は

 全部新規で撮り直してるんだ。

 TV版では『私は』のとこ

 『あたしは』って言ってるのよ」


【私】でも【あたし】でも

どちらでも良いように

思われましたが、

その辺が気になるのが

シナリオライターなのでしょうか?


「……これは分かるかな?

 『俺はまだ本気出してないだけ』

 原作27話の扉絵で、雑誌掲載時に

 付いてたキャッチコピーは?」

「分かりますよ。

 そして、

 大黒シズオ(42)から

 「俺はまだ本気出してないだけ」と

 思っている、すべての人へ――

 ですよね?」

「うんうん、それよそれ」

「この27話と

 その前の26話の掲載分だけ

 雑誌を切り抜いてますね?」

「そうそう、

 26話の『パンを焼く』と

 27話の『君は薔薇より美しい』は

 名編でね……

 キャッチコピーや

 柱のコピーも良くて

 捨てられなかったのよ」


既に賀島さんは

私の能力を確かめるというより、

自分の思い出の中の感動を

反芻しているように思われました。

ただそれだけのことなのに、

彼はとてもとても幸せそうです。


「……で、神様はどうだい?

 コミックやら本やらDVDやら

 色々あるけど、

 何か気に入ったのはあったかい?」

「……いえ、あの、ごめんなさい。

 私達はそういうの……ないんです」

「そういうの?」

「人間の皆さんが創作したものを

 知覚することはできるんですけど

 それについての感想とか、

 どれが気に入ったとか

 そういうの感じたりできないんです」

「ああそっか……そうなんだ……

 そりゃまた気の毒になぁ……

 悪いこと聞いちゃったな」


……気の毒?

人間である賀島さんが

神である私を何故可哀想に思うのか、

その時の私には

まだよく分かりませんでした。


結局この日の後も、

私は折に触れて

この仕事場を訪ねることになります。

もし宜しければ、

また私の話を聞きに来てください。


お知らせ

日記
02 /08 2022
五か月半ぶりの更新になってしまいました……
((((;゚Д゚)))))))
二月に入ったあたりから
仕事でも子供の行事でもまた不要不急の外出を自粛するような流れになり
少し時間が取れそうになってきました。

『エロアニメの神様』まだ始まったばかりなのですが
いずれはこれを小説風エッセイとして
近況報告や告知も絡めて行けたらなと考えております。

本業優先なのでどうしても不定期更新になりがちですが
お暇な時にでも覗いて頂けるとありがたいです。

佐和山進一郎

エロアニメ・エロゲームのシナリオ
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