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#26 あなたがいない世界の

エロアニメの神様
11 /20 2022
さて今回は
先日のお話の続きです。

賀島さんは日本橋駅へ戻る道すがら、
ビデ倫、日本ビデオ倫理協会の思い出を
もう少し語って下さいました。

「……そう言えば
 ビデ倫の慰安旅行みたいなのも
 あったんだよ」
「慰安旅行?」
「一応名目上は
 研修ってことだったんだけどさ
 バスでホテルまで行って、
 研修会をちゃちゃっと済ませたら
 夜はコンパニオン付きの宴会で、
 翌日はゴルフか観光かどっちか
 選べるようになってたな。
 参加費も確か格安だったか……
 もしかしたらタダだったかも」

どうしてまた
 慰安旅行なんかがあるんです?
「ビデ倫の運営は基本的に
 メーカーが納めてる審査料とか
 認証シールの発行料で
 成り立ってるんだけどさ、
 あそこは営利団体じゃないから
 予算が余ってるとメーカー側に
 還元してくれるんだよ」
「研修って名目にすれば
 みんな会社の仕事って体で
 一泊二日のんびりできるってわけ」
「ははぁ……なるほど」
「さすがに何年かに一回だけの
 イベントだったけどさ、
 普段交流が無いAVメーカーさん
 と色んな話が出来たりして
 結構楽しかったなー……」

こうしてお話を伺っていると
賀島さんとビデ倫さんとの関係は
大変良好であったようです。

「……いや、良好と言えるかどうか
 分かんないけどね」
「あらららら?」
あの当時、とにかくスケジュールが
 ギリギリでねぇ……
 審査結果が出たら
 会社まで戻る時間が惜しくて、
 ビデ倫近くの路上から電話して
 ジャケット印刷とかDVDプレス
 の手配をしてたんだよ」
「そんなこんなで
 私はいっつも小汚いカッコして
 バタバタ右往左往してたからさ、
 何て言うか……しょーがねぇなぁ
 って思われてたんじゃないかな?」
「そうなんですか」

中でも一番追い詰められたのが
 忘れもしない
 『ボンデージ・ゲーム』第一巻の
 映像審査だね」

『ボンデージ・ゲーム』
2002年1月にアイルさんから
発売された18禁ゲームソフトです。
2003年4月にエロアニメの第一巻が
ピンクパイナップルさんから
発売されております。

「この作品はメーカーさんとしても
 力を入れていたタイトルでさ。
 キャラデザインと作画監督を
 雑誌『メガストア』の表紙絵で
 有名だったうめつゆきのりさんに
 お願いしたんだよね」
「ほうほう」
「これは昔も今も同じだけど、
 腕の良い絵描きさんはとにかく
 もうスケジュールがパンパンでさ
 作画作業が遅れちゃってたの」
「何とかアフレコとダビングは
 済ませたんだけど、それでもまだ
 全然絵が埋まらない」
ビデ倫の映像審査もギリギリで
 予約してたんだけど、その前日に
 なっても、モザイク入れどころか
 絵が上がってないカットが大量に
 あるような状態だったのよ
「そんな状況からどうやって審査に
 臨まれたんですか?」

編集スタジオを一晩中借りてさ
 制作会社から上がってきたカット
 を順次差し込みながら、モザイク
 入れの作業も同時にするのよ。
 この時使った編集スタジオさんは
 当時としては新しいシステムでね
 映像データをHDにアップして
 複数の端末から同時に編集作業を
 進められる優れモノだったのよ」
「えーと、それはつまり……」
「簡単に言うと、三台の端末を使って
 作品の始めと終わりと真ん中、
 同時に三か所からモザイク入れや
 カットの差し込みが進められる
 ……ってわけ」
「おおぉ……それは素晴らしい。
 それで何とか審査に間に合ったと
 いうことですね?」
「……いやそれがねぇ。
 やっぱり間に合わなかったのよ」
「えぇえぇっ!?……」

「その編集スタジオさんのシステムは
 素晴らしかったんだけどねぇ……
 オペレーターさんがアダルト作品の
 モザイク入れなんてやったことが
 ない人ばっかりでさ。
 結局、いつものスタジオでやるより
 時間が掛かっちゃったんだよね
「あらあら、まあまあ……」
「それに加えて、幾つかのカットの
 仕上がりが遅れたまま夜が明けて
 映像審査の時間にはどうやっても
 間に合わなくなっちゃった

「では、ビデ倫の映像審査を
 延期されたんですか?」
「それが許されるんだったら
 最初っからそうしてるよ
 当時はビデ倫も審査スケジュール
 が立て込んでたからねぇ。
 もし審査の予約をキャンセルして
 再申請なんかしてたら、納品日に
 絶対間に合わなくなっちゃう」
「となると……どうしたんです?」

これはズルいやり方で
 今だから言える話なんだけどさ。
 ビデ倫の映像審査に行く時、
 あえてモザイクが全く入ってない
 ビデオテープを持ってったの
「はい?」
「もちろんそれで映像審査が
 通るわけないんだけどさ。
 私のうっかりで間違ったテープを
 持ってきちゃったことにして、
 すぐに編集スタジオからバイク便
 でテープを届けてもらうから、
 何とか今日中に映像審査をお願い
 したいって交渉したの。
 例え数時間でも、どうにか時間を
 稼ごうと思ってさ」
「ははぁ……何と言うか
 そこまでなさるんですね……」

「必死に拝み倒して何とか審査を
 待ってもらってさ、後はもう、
 バイク便でテープが届くのを
 ビルの前でずっと待ってたよ。
 そんなにすぐ届くわけないって
 分かってたんだけど、状況的に
 食事に行ったり会社に戻ったり
 できる立場じゃなかったしさ」
「そしたら、審査員さんとか
 ビデ倫のエラい部長さんとかが
 心配してちょくちょく私の様子
 を見に来てくれてさ……
 もう申し訳なくて申し訳なくて
 いたたまれなかったねぇ……」

「その後、バイク便で届いたテープで
 審査を通過されたわけですね」
「3~4時間後にようやくテープが
 届いて、審査員さんの空き時間を
 待って、どうにかこうにか審査を
 してもらったんだけどね……結局
 その日の審査は落ちちゃったのよ
「えぇええっ!?……」
「……いやね、立ち合い審査だから
 私も審査員さんと一緒に
 そのビデオを観たんだけどね、
 結局、編集が間に合ってなくてさ
 あちこちモザイクが抜けてたり、
 リテイクカットが差し変わって
 ない状態だったんだ。
 あれじゃ審査に通るわけないよ」
「でも、その日に審査できなければ
 もう納品日に間に合わないという
 お話だったでしょう?」

実はさ……この日はとにかく
 映像審査を受けることが第一でね
 最悪、審査に落ちちゃっても
 何とかできる抜け道があるんだよ
「どういうことです?」
「もし、審査をキャンセルして
 予約を再申請するとなると、
 日数が空きすぎて納品日には
 絶対間に合わないんだけどさ。
 例えどんなボロボロの内容でも
 とにかく一度審査を受けて、
 その【修正審査】って形なら
 日数を開けずに受けられるのよ」
「修正審査?……」
「審査で不適切な箇所があった場合、
 審査員さんはそのタイムコードを
 キチンと記録しておくのよ。
 で、メーカー側が修正した映像を
 持ってきたら、その修正審査では
 前の審査で不適切だった箇所だけ
 早送りしてチェックするわけ」
「ふむふむ」
「だから修正審査ってのは
 あんまり時間が掛からなくてさ、
 通常の審査の合間にちゃちゃっと
 観てもらえるシステムだったのよ
 特にエロアニメはAVと違って
 そもそもの本編尺が短いわけだし、
 融通が利いたんだよね」

「ということはつまり……」
「我々としては、最悪でも
 修正審査にさえ持ち込めれば
 何とか納品日に間に合わせる算段
 があったんだよ」
「バイク便でテープを送った後、
 制作現場と編集スタジオは
 一旦休憩してたんだけどさ、
 私が審査結果を報告した時点から
 すぐに修正作業を始めて、
 翌日には修正審査を受けたんだ」
「ははぁ……なるほど……」
「で、修正審査は何とかクリアして
 どうにかこうにか納品日に
 間に合わせたんだよね」

「何と言うか……
 壮絶な綱渡りだったんですね」
ビデ倫の審査員さんたちも
 制作現場が滅茶苦茶だったことは
 薄々分かってたんだろうね
「ビデ倫に持っていくテープを
 間違えたって話はまだしも、
 その後、バイク便で届いたテープ
 がボロボロの状態だったことは
 説明がつかないもの」
「確かに」

「修正審査の時にも、審査員さんには
 お詫びしたんだけどさ、
 エラい部長さんだけは外出中で
 その時は会えなくて、
 改めて一週間後に菓子折り持って
 お詫びに行ったんだよ」
「そこで何か怒られたんですか?」
「こっちはビクビクしてたんだけどさ
 『毎日審査で忙しいんだから
  一週間前のことなんかいちいち
  覚えてらんないよ』って
 笑って流してくれたんだよね……」

ビデ倫の審査で
【一番追い詰められた思い出】
話していたはずなのに、
賀島さんの表情は、何だかとても
懐かしそうに見えました。

「メーカーの関連会社を辞める時、
 ビデ倫にも挨拶に行ったんだよ。
 いつも小汚いカッコしてた私が
 珍しくスーツなんか着てたから
 審査員さんたちが面白がってね。
 最後にデスクの上にあった缶から
 フルーツのど飴を貰ったんだ」
「ほうほう」
「帰り道、日本橋駅に戻る途中で
 そののど飴を舐めてたら、
 何だか無性に込み上げてきてね。
 いい年した大人が恥ずかしいけど
 日本橋の上で涙ぐんでたよ……」

そんな思い出を語っていると
賀島さんの目には
また涙が浮かんでいるようです。
しかし私はそれを
恥ずかしいとは思いませんでした。

「……神様、
 また一曲リクエストしていいかい?」
「はいはいどうぞ」
『ベルセルク 黄金時代篇』
 MEMORIAL EDITIONのエンディング
 中島美嘉さんの
 『Wish』を聞かせてよ」

『ベルセルク 黄金時代篇』
三浦建太郎さんのコミック
『ベルセルク』を原作とした
劇場アニメーションで
2012年から2013年にかけて
全三部作が公開されました。

2022年10月に
MEMORIAL EDITIONと題し
テレビシリーズとして再編集されて
放送・配信されています。
中島美嘉さんの『Wish』
MEMORIAL EDITIONのために
新規に書き下ろされた
エンディング曲です。


「メインキャラとキーアイテムが
 次々と塵になっていくだけの
 シンプルな映像なんだけどさ
 物語に寄り添った切ない曲で
 すごく余韻が残るんだよね
 今期のアニメで
 一番好きなエンディングだよ」

本日も長々とお聞きいただいて
ありがとうございました。
あまり頻繁に更新できず恐縮ですが
よろしければまた
私の話を聞きに来てくださいね。

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佐和山進一郎

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