#6 ターゲットは555M
エロアニメの神様さて今回は、
エロアニメシナリオライター・
賀島晴史郎さんの日常について
ご紹介したいと思います。
賀島さんの朝はとても早く……
と言うか、
大抵は夜中からずっと起きて、
自宅の隣にある仕事場で
作業をされています。
朝になると作業を中断、
朝刊を読んで朝食を食べて、
録画した深夜アニメを
チェックされたりします。
娘さん達の登校を見送った後、
8時位からお昼過ぎまで仮眠。
「午前中に電話とかしてくる
業界人は殆どいないからね」
「新人の頃、午前11時に
先輩ライターに電話したら
『何時だと思ってるんだ!』って
怒られたことがあったよ(笑)」
午後はやや流動的です。
締切に追われていれば
もちろん作業を続けますが、
そうでなければ
お風呂掃除やトイレ掃除をしたり、
週に一度は近所のスーパーに
買い出しに行ったり、
月に一度はお母様の通院に
同行したりされています。
夕方になると自宅に戻り、
娘さん達から
学校からの連絡事項を聞いたり、
プリントや宿題に
目を通したりされます。
ササッと入浴と夕食を済ませて
再び仕事場に戻ると
まずは仮眠をされます。
週に一度くらいは
映画のレイトショーを
観に出かけたり、
スーパー銭湯に行かれることも
あるそうです。
その後は明け方まで
またずっと作業……
これが彼の
大まかな一日の流れです。
ご飯を食べると
どうしても眠くなってしまう
ということで、
一日二食にされているとか。
あと、天候が悪い時には
娘さん達の学校や
習い事の送迎をしたり、
夜の作業中に業界のお友達と
長電話したり、
YouTubeを観たりすることも
あるそうです。
「……今更なんだけど、
こんなオジさんの日常を
紹介されて
見てる人楽しいかな?(汗)」
「一つ気になったのですが、
月に一、二度アフレコの
見学に出かけるだけで、
お仕事関係の外出が
ほとんどありません」
「あー、そうだなー。
打ち合わせも電話かメールの
やり取りで済んじゃうことが
多いしなー」
「これはやはり昨今の
コロナ禍の影響なのですか?」
「いや、前からそうだよ。
エロアニメは関わっている
会社とスタッフが少ないからさ」
「他のアニメは違うんですか?」
「今はやり方が
違うかもしれないけど、
俺が昔TVアニメの
シナリオ書いてた頃は、
毎週一回打ち合わせがあったよ」
「2クールのTVアニメだと
4~5人のライターがいて、
それぞれ事前に提出した
プロットとかシナリオを
プロデューサーや監督と
打ち合わせするの」
「自分の担当回以外でも、
他のライターの
打ち合わせを聞いて、
プロデューサーや監督の
考え方を聞いたり、
作品に対する理解を
深めたりするわけ」
「なるほど」
「ところがエロアニメだと、
前後篇の全2話で
ライターは一人だけなの。
俺、300本くらい
エロアニメ書いたけど、
他のライターと一緒に
仕事したことないからね」
「あと、長い付き合いのスタッフが
多いからってのもあるかな。
エロアニメを専業でやってる
制作会社やスタッフって
実は結構少なくてさ。
メーカーさんも割と継続して
仕事を発注してくれるから、
もう20年近くの付き合いになる
スタッフも結構いるのよ。
そうすると、
いちいち打ち合わせしなくても、
お互い何となく求められてるモノ
が分かってくるからね」
「そうなんですか……
私、アニメ制作の
打ち合わせというと、
製作委員会とか原作元とか、
色々集まって
侃侃諤諤するものかと
思っていました」
「エロアニメだと
製作委員会って無いからねぇ」
「無いんですか?」
「製作委員会方式ってのは
アニメの制作費を複数の企業で
合同出資する形式でしょ?」
「はい」
「そもそも何でみんなが
アニメに出資するかって言うと
自分の会社で売る商品の宣伝に
なるからなんだよね。
原作のコミックや小説、
ゲームソフトにソシャゲとか。
あと本編のソフト化や配信、
役者さんを使ったイベント、
主題歌のCDやグッズとかとか」
「なるほどなるほど」
「ところがエロアニメだと、
本編のソフト化と配信だけ
なんだよね。
グッズが出るにしても、普通は
原作絵を生かしたモノになるし、
役者さんが顔出しできないから
イベントもまず難しいし、
最近は制作費も厳しいから、
ボーカルが入ったエンディングは
作らないことが大半だし……」
「あらららら」
「なんせエロアニメは、
18歳未満と大半の女性客を
切り捨てちゃってるメディア
だからね。
他と比べて市場が狭いのよ」
「原作元の出版社さんや
ゲーム会社さんはいかがです?
出資して下さらないんですか?」
「これがねー、俺もそこそこ長く
エロアニメ業界にいるんだけど、
原作元が出資してるって話は
聞いたことがないんだよねー」
「もちろん、原作元さんと
現場が揉めてるわけじゃないし、
原作本やゲームソフト、
資料なんかはちゃんと貰えるし
シナリオや絵コンテやキャラの
チェックもして下さるんだけどさ」
「一体どういうことでしょう?」
「これは推論なんだけど、
出資に値する宣伝効果が
無いってことなのかなと……」
「えぇええぇっ!?……」
「TVアニメと比べちゃうと
どうしてもねぇ……
作品の宣伝をしようと思っても、
エロじゃYouTubeとか
普通の動画サイトは使えないし、
アニメ誌でもエロアニメは
取り上げてくれないしなぁ……」
そう言えば、私が産まれた日、
秋葉原の街を訪ねてみたら、
アニメイトさんではエロアニメを
扱っていなかったのでした。
「感覚としては、エロアニメは
人気のエロマンガやエロゲーの
関連商品の一つって感じかもなー」
「結局のところ、
エロアニメに出資しているのは
メーカーと一部の制作会社だけ
なんだよね」
「メーカーさんと制作会社さんの
違いを改めてお願いします」
「メーカーさんってのは、
ピンクパイナップルさんとか
メリー☆ジェーンさんとか
エロアニメの販売レーベルを
持ってる会社のこと。
原作元と契約を締結して、
制作会社にアニメを発注して、
出来上がった映像をソフト化して
販売するのがお仕事。
作品全体のプロデュースって
捉えてもいいかな」
「制作会社さんってのは、
ティーレックスさんとか
オフィス8番さんとか
メーカーから発注を受けて、
実際にアニメを作る現場のこと。
俺はこの制作会社さんから発注を
受けて、シナリオ書いてるわけ」
「映像業界では、
メーカーが受け持つのは【製作】
制作会社が受け持つのは【制作】
なんて表現されるんだよね」
「なるほどなるほど」
……それにしても、
市場が小さいとか、
出資して下さる会社が少ないとか
こうして聞いてしまうと、
エロアニメの神様としては、
一抹の寂しさを感じてしまいます。
「……ま、
そんなに落ち込むこともないよ。
エロアニメ業界は
もう40年近くずっとこんな感じで
やってきたわけさ。
逆に考えると凄くないかな?
出資してくれる会社も少ない、
関連商品やグッズもない、
アニメ誌やアニメショップでの
扱いや宣伝もないのに、
こうやって今日も元気に
生き残り続けてるんだからね」
「なるほど、そういう前向きな
考え方もありますね」
「そうそう話は変わるけど、
『ルパン三世』第二シリーズの
『ターゲットは555M』が
今、無料配信されてるんだよね」
「はい?」
「今日初めて気が付いたんだけどさ
8日までの期間限定らしいから、
少しでも告知してほしいなー」
『ルパン三世』は
モンキー・パンチさんの原作で、
これまでに6度のTVアニメ化と、
劇場アニメ、TVスペシャル、
実写映画も製作された人気作品です。
賀島さんがお気に入りなのは、
幼少期に何度も観て慣れ親しんだ
TVの第1~2シリーズだとか。
「『ターゲットは555M』は、
アバンタイトルが特に秀逸でね。
全体の色調や自転車の使い方とか
雰囲気も凄くいいんだけど、
タイトルに入る直前の
ルパンと次元の短い台詞の
やり取りがとにかくカッコよくて
痺れるんだよね~」
最近、ようやく私も
動画の張りつけ方を覚えたので、
皆さんにご紹介したいと思います。
賀島さんが急にまた
オタトークを始めたのは、
落ち込んでいた私を
励ますつもりだったのでしょうか?
神様である私が
ヒトに励ましてもらうというのも
何だかおかしな話なのですが、
私はほんの少しだけ
温かな気持ちになれました。
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