#24 あなたがこの世に生まれたのは
エロアニメの神様本日は前回のお話の続きです。
若かりし頃、脚本家事務所に所属して
TVアニメやドラマCDなどなど
いわゆる一般向け作品のシナリオを
執筆されていた賀島さん。
ところがお仕事に行き詰りを感じて
事務所を退所されてしまいます。
ライターとして一度筆を折った彼は
どのようにしてエロアニメライター
として復帰したのでしょうか?
「脚本家事務所を辞める時、
師匠や先輩が骨を折ってくれてさ
とある映像メーカーの関連会社に
就職が決まったのよ。
で、そこがエロアニメメーカーの
ピンクパイナップルさんと繋がり
がある会社でね。
プロデューサーの織賀進さんとの
付き合いがそこから始まったのよ」
「ほうほう」
「面接の時に
『愛姉妹2~二人の果実~』と
『臭作~Liberty~』の
サンプルDVDを貰ってねぇ
それだけでウキウキだったのを
今でも覚えてるよ」
「当時からエロアニメは
お好きだったんですか?」
「うん、もちろん。
ネットが普及してなかった当時、
エロアニメとかAVが一番安くて
身近なエロメディアだったからさ」
「一番安い?」
「ソフトを購入するんじゃなくて
レンタルビデオを借りてたのよ。
そうすると実はエロ本を買うより
安く楽しめたりするんだよね」
「ははぁ、なるほど」
「当時、自転車であっちこっちの
レンタル店を回って、好みのAVや
エロアニメを探してたなぁ……」
「以前、賀島さんが初めてエロアニメ
のアフレコを見学したのは
『臭作~Liberty~』の後編だった
と伺ったことがありました」
「そうそう、入社二日目だったかな。
この作品は何が凄いって、高部絵里
のHシーンがあるんだよね~」
「何がどう凄いのですか?」
「絵里は原作ゲームでは最後まで
犯されなかったキャラクターなのよ。
それがエロアニメで初めてHシーン
を出しちゃったからねぇ。
『臭作』のアニメ化は
3シリーズ目だったんだけど
個人的にずっと見続けていたから
本当にビックリしたわ。
それと同時に、
この内容を原作元にOKさせた
織賀進プロデューサーの手腕にも
驚かされたね」
「メーカーのプロデューサーさんとは
どんなお仕事をされるのですか?」
「まずは社内会議で制作する作品の
候補が決まってさ、それに対して
原作元さんと原作使用契約、
制作現場との制作委託契約を締結
するのが始めの仕事かな」
「その後は、シナリオやキャラデザや
コンテが上がってきたらチェック
して、原作元さんにも確認を取る」
「現場が本格的に動きだしたら、
ジャケット版権や見せ場になるカット
を先行して仕上げてもらって、
ポスターや宣伝素材を作成するの。
で、HPや店舗用の紙資料や雑誌広告
なんかで告知を進めるわけ」
「カッティングからアフレコ、ダビング
V編には全部立ち会って、その後は
モザイク入れと審査団体への申請」
「審査が通ったらジャケットの印刷や
盤面プレス作業の手配、最後に検証盤
のチェック……くらいかな?
まあ大雑把な流れだけど」
「メーカーさんとしては、毎月何らかの
新作を出す必要があるから、
常に5~6作のタイトルを抱えて
同時進行させてる感じだったね」
「こんな風に製作のお手伝いをしてる頃
荒木英樹監督やむらかみてるあき監督
とも知り合いになったんだよね」
「なるほど、こうしたお仕事の中で
エロアニメシナリオへの関心を
高めていったわけですね?」
「……いや、実はそうでもないんだ」
「あらららら?」
「シナリオライターの仕事はもう完全に
諦めたつもりだったし、当時は正社員
待遇で福利厚生もしっかりしてたし、
このままプロデューサーの仕事を
続けて、将来的には織賀進さんの後を
継ごうと思ってたんだよ」
「それがまたどうして?」
「……これは流石に内部情報が絡むんで
詳しくは言えないんだけどさ。
とある会社の事情で
ピンクパイナップルさんの製作本数が
著しく減った時期があったんだよ。
これはエロアニメだけじゃなくて、
一般アニメも実写映画もVシネも
出版もグッズも全てのセクションが
同じ状況だったんだけどね」
「それはそれは……」
「社員も大半が退職しちゃう状況でさ、
入社二年そこそこの新人だった私も
もう会社に居られなくなっちゃった
んだよねぇ……」
「実はこの出来事、
エロアニメ業界全体にとっても一つの
分岐点になってててさ。
当時、ピンクパイナップルさんから
制作を受注してた【ひまじん】さんが
ピンパイさんからのお仕事が極端に
減っちゃったんで、自社レーベルを
立ち上げることになったんだよ」
「ほうほう」
「当初はレーベル名も
【ひまじん】で立ち上げたんだけど、
これが今日の【エイ・ワン・シー】
さんに繋がっていくわけだからね」
「そして賀島さんは
いよいよエロアニメライターを
志すわけですね?」
「……いやごめん、そうでも無かった」
「おやおやおや?……」
「メーカーの関連会社を辞めたあと、
お付き合いがあった制作会社に
勤めたりもしたんだけどさ、ちょうど
その頃、付き合ってたカミさんとの
結婚を考えてて、思い切って独立して
個人事務所を興したのよ」
「それが現在も
こうして続いているわけですね?」
「本当は法人化しないで、
個人で確定申告してた方が良かったと
今では思ってるんだけどさ。
まあ若かったよね。
【自分の会社】って響きについつい
魅力を感じちゃってさ」
「その時またシナリオの仕事をしようと
は思わなかったんですか?」
「思ってなかったね。
自分の会社って言っても、今と同じ
在宅の個人事業だし、自分の家族の
食い扶持だけ稼げばいいんだから、
まぁ気楽なもんだったのよ」
「前のメーカーの関連会社に居た時に
業界関係の知り合いは随分増えたから
ちょっと制作のお手伝いをしたり、
DVDのブックレットを書いたり、
細かい仕事をチマチマしていたの」
「……で、そんな仕事をしてたある日、
ピンクパイナップルさんに残っていた
織賀進さんから、エロアニメシナリオ
の依頼が来たのよ」
「おおぉ……遂に来ました!」
「この時依頼されたのは、『鬼作魂』の
第三巻なんだけどさ」
「一巻ではなく、三巻なんですか?」
「元々この作品は、エルフさん原作の
『鬼作』のアニメ化第二弾でね。
私がまだ製作の仕事をしていた頃に
一巻と二巻は発売してたのよ。
で、その売上が好調だったから、
第三巻が追加で制作されることに
なったわけ」
「なるほど」
「ただ、二巻までのスタッフはもう
別の作品の制作に入ってたんで、
スタッフを変更することになって
私に依頼が来たのよ」
「という事は、この作品が賀島さんの
エロアニメシナリオデビューになる
という事ですね?」
「……いやそれがね、
実はこの話、断っちゃったのよ」
「えぇええっ!?……」
「自分に実力が無かったからライターを
辞めたって意識があったし、
何と言ってもライターを辞めてから
2年以上経ってたからね。
相当腕が鈍ってるんじゃないかって
思ってたの」
「そういうものなんですか?」
「ライターでも絵描きでも役者でも……
いやまあアニメに限った話じゃなくて
技術的な職業っていうのは、
やっぱり休めば休んだだけ
感覚が鈍ってくるんじゃないかな。
車とか自転車の運転と同じだと思う」
「実際の私のデビュー作は、それから
約1年後、アトリエかぐやさん原作の
『姉汁THE ANIMATION』の第一巻だよ
これも製作はピンクパイナップルさん
制作はティーレックスさんだったね」
「ピンクパイナップルさんが
製作ということは……」
「そう、また織賀進プロデューサーが
声を掛けてくれたんだよ」
「今度はどうして引き受けたんですか?」
「織賀さんはエロアニメのイロハを
教えて頂いた恩人だからね。
続けて断るのは気が引けたし……
織賀さんに言われたんだよ。
『もし内容がダメだったら、
俺が直してやるから』ってさ」
「なるほど、それなら安心ですね」
「いやそれがね、
そう単純な話でもないんだ」
「え?」
「織賀さんは美大出身で
制作会社の進行で叩き上げた人でね
絵は多少描けるんだけど
文章が書ける人じゃないのよ。
だから一緒に仕事してた頃は
私がその辺をお手伝いしてたの」
「ではどうして『自分が直してやる』
なんて仰ったんですか?」
「お互いにそんなの無理って分かってる
見え見えのハッタリなんだけどさ、
何とか私のことを励まそうって
気持ちだけは伝わってきて、
不思議と胸を打たれたんだよね。
それで、何とかもう一度だけでも
頑張ってみようって思ったんだ」
「実際の作業はどうだったんですか?」
「OVA全2巻の企画だったからさ
原作ゲームをじっくり解析してから
プロットは2本まとめて作ったんだよ。
で、それは問題なく一発OKで
#1のシナリオは二稿でOK。
#2のシナリオを書いた後で、
原作元さんからリクエストがあって
プロットを改訂したんだけど、
それでも結局4稿でOKだったかな」
「久しぶりのシナリオで、
初めてのエロアニメシナリオで、
さぞ苦労するだろうと思って
スケジュールも余裕持ってたんだけど
思いのほかあっさりと決定稿に
なっちゃった……って感じだった。
もちろん、織賀さんに直しをお願い
することもなかったよ」
「やはり賀島さんには
エロアニメシナリオの才能があったと
いうことなのでしょうか?」
「……よしてよ、それこそアニメや漫画
じゃあるまいし」
「では、どういうことなのですか?」
「メーカーの関連会社にいた2年間、
何だかんだ言って、毎日エロアニメの
ことばっかり考えてたんだよ。
シナリオもコンテもじっくり読んだし、
監督や役者さん、クリエイターさん達
たちとも色んなことを話し合った。
売れそうな原作をチェックしたり、
見栄えのする版権の構図を考えたり、
告知宣伝のプランやジャケット裏面の
テキストを練ったりさ。
そういう作業の積み重ねで、
エロアニメ制作に関するスキルが
いつの間にか上がってたんだろうね」
「なるほど」
「後はね、エロアニメは目的がハッキリ
してるから取り組みやすいってのも
あると思うんだ」
「どういうことでしょう?」
「TVアニメだとさ、
色んな魅力の出し方があるじゃない?
女の子の可愛さで魅せてもいいし、
アクションやメカ戦のカッコ良さで
魅せるのもいい、ギャグで笑わせるの
もいい、音楽で魅せるのもいいし、
泣かせる作品を目指してもいい。
魅力的な作品を作るために、
色んなやり方があると思うんだよ」
「それはそれで良いことだと思うけど
反面、あまりに選択肢が多すぎて
迷っちゃう部分もあると思うんだ」
「なるほど」
「それに対してエロアニメは
とにかくまずエロくあること、
パンツを脱いで待ってるお客さんを
スッキリさせるっていう目的が実に
ハッキリしてると思うんだよ」
「だから、何かで迷った時に
どうしたらよりエロくなるのか?
ってことを第一に考えればいいから
考えやすいんだよね」
「そういう考え方もありますか」
「最後にこれは個人的なことになるけど
TVアニメや一般作では、どうしても
空気を読んじゃって、無難な作品、
ありきたりな置きに行く作品しか
書けなかった私なんだけどさ。
どうしたらよりエロくなるのか?
ってことを第一に考えると、
それは男性の本能的な部分だからね
本性と言うか、本音の部分が
自然に出せたっていうのが
良かったんじゃないかなと思うよ」
「……いやはや、今回は本当に
長々とありがとうございました。
ではでは最後に
私から一曲ご紹介したいと思います。
1981年公開、手塚治虫さん原作の映画
『ユニコ』のエンディングテーマで
『愛こそすべて』です」
ご本人は気づかれていないようですが、
賀島さんがシナリオライターとして
エロアニメの現場に復帰できた理由は、
ユーザーとして、またスタッフとして
関わり続け、育まれてきた
エロアニメへの愛情があったからでは
ないでしょうか?
私はエロアニメの神様として、
技術よりも何よりも、
エロアニメを愛してくれる人が
スタッフにいてくれることを
何よりも嬉しく思います。
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