#23 夕陽に消えたあのヒーローが
エロアニメの神様賀島さんは
エロアニメシナリオを書かれる以前、
TVシリーズのアニメシナリオを
書かれていた時期もあったそうです。
一体どうしてそちらのお仕事を
辞めてしまわれたのでしょうか?
「……いや別に辞めたくて
辞めたんじゃないけどね。
単純にシナリオの仕事が無くて
生活が苦しかったからさ」
「……ごめんなさい、
嫌なことを聞いてしまいましたか?」
「いやいや、別にいいよ。
もしあのままでいたら、エロアニメ
に関わることも無かっただろうし、
結果として、今の仕事と今の生活
には満足してるんだからさ」
「やはり賀島さんは
エロアニメの方が性に合っていた
ということでしょうか?」
「それもあると思うけど……
やっぱりあの頃は
ビビってたんだと思うね」
「ビビってた?」
「TVのシナリオ打ち合わせには
シリーズ構成と他のライター、
監督や演出にプロデューサー、
番組によっては原作元やTV局の
プロデュサーも参加しててさ、
10人以上のスタッフに自分の
シナリオを検討されるわけよ」
「だから新人の頃はさ、
とにかく変なこと書いちゃダメだ
直しを少なくしなきゃダメだ
早く決定稿にしなきゃダメだって
ガチガチだったんだよね」
「そうなるともう、書く内容が全部
【無難なモノ】になっちゃってさ」
「無難なモノ?」
「例えばアクションもので
強敵に何か攻撃を仕掛けた時、
朦々と土煙が上がって、
『やったか?』とか言うんだけど
強敵はノーダメージ……みたいな
描写ってよくあるじゃない?
そんな感じで、
『まあ普通そんな感じだよね』
って誰もが思うような描写、
ありきたりな描写とも言えるかな」
「なるほど」
「野球のピッチャーに例えると
四球や死球が怖くて、ストライクを
【置きに行ってる】感じだね。
でもそんなボールがバッターに
通じるわけもなくて、
そんな調子で書いたシナリオは
打ち合わせではボコボコだよね」
「昔よくライターの先輩に
『このシナリオ何が書きたいの?』
って言われてさ、
当時は未熟だから怒られてると
思ったんだけど……違うんだよね」
「どう違っていたんですか?」
「ただひたすら無難にまとめただけの
シナリオだと、そのライターの
意図が分からないんだよ。
アクションなら何をカッコいいと
思っているのか、ギャグなら何が
面白いと思っているのか、恋愛物
ならどこでキュンキュンするのか
突き詰めて言うと、
このシナリオで何が言いたいのか
……ってことになるのかな」
「シナリオの【テーマ】
ということでしょうか?」
「まあそう言っちゃうと大袈裟に
聞こえるけどね」
「例えば、戦隊もので新しいロボが
出てくる話とか、プリキュアで
新しいアイテムが出る話とかは、
そのロボやアイテムが
カッコよく見えて盛り上がる話を
考えなくちゃいけない訳でしょ?」
「エロアニメで考えてみても、
ある女の子にエッチをさせる時、
そのキャラの魅力は胸かそれとも
お尻か、あるいはをMっぽい性格
なのか、人妻という設定なのか、
アピールしたい強調したいものが
何なのかによって、
どんなエッチシーンにするのか
場所や相手やシチュエーション、
アイテムや体位も違ってくるのよ」
「ははぁ……」
「例えシナリオの技術が未熟でも、
そのお話で、あるいはそのシーンで
一体何を見せたいのか?
っていうライターの意図が分かれば
先輩ライターや監督、スタッフは
経験豊富なんだから、いくらでも
アドバイスしてあげることが
できるんだよね」
「ところがそれがよく分からなくて
ただ無難にまとめてあるだけだと
『このシナリオ何が書きたいの?』
ってことになっちゃうわけ」
「そのことに当時は
気づかれなかったんですか?」
「もうテンパってて、一杯一杯で
とてもそんな余裕はなかったなー」
「そんな調子だったから、
当時はプロットで二~三稿、
シナリオで四~五稿になるのは
当たり前でさ。
何とか決定稿になっても
正直ホッとしたっていう感じで
全然楽しくなかったんだよね」
「当時、自分の師匠の脚本家事務所に
所属しててさ、今考えると、
チャンスは一杯貰ってたんだよね。
師匠がシリーズ構成を務めた作品
の文芸担当にしてもらったことも
あったりしてさ」
アニメ制作における文芸とは
制作会社や作品により様々な解釈が
あるようです。
賀島さんが担当されていたのは、
シリーズ構成の下に就いて、
スケジュール管理をしたり、
執筆に必要な資料を作ったりする
お仕事だったそうです。
「文芸担当なら、毎回脚本打ち合わせ
に出席してるんだからさ、
自分なりにプロットを書いて、
見てもらえば良かったんだよ。
シリーズ構成をやってるのは
自分の師匠なんだしさ。
上手く行けばシナリオを書くこと
もできたかもしれない」
「何故そうしなかったんですか?」
「やっぱりビビってたんだよね。
未熟なプロットを提出して
怒られるのが怖かったから。
文芸担当に集中してるフリをして
自分で仕事を取りに行かなかった」
「事務所の中でもそうだったな。
他の先輩の仕事に絡むチャンスは
いくらでもあったはずなのに、
事務所の経理とか掃除とか、
雑用ばっか一生懸命だったような
気がする」
「雑用に一生懸命なのは
良くないことですか?」
「遊んでるよりは良いと思うけどさ。
結局はシナリオの仕事から逃げて
簡単な雑用で自分の存在意義を
見つけようとしてるだけだからね」
「師匠としても、事務所としても、
雑用を一生懸命やることより、
ライターとして大成してくれた方が
よっぽど嬉しかったと思うし、
利益にもなったはずなんだよ」
「確かに」
「落語でも前座のお仕事があるけど、
それだけに一生懸命だったら
本末転倒じゃない?
やっぱり間近で師匠方の芸を見て、
一日も早く二つ目、真打ちに昇進
することを目指さなくちゃね」
「そんな中途半端な状態は
自分でもやっぱり苦しくて、
楽しくなくてさ。
結局、所属してた脚本家事務所を
自分から辞めちゃったんだよね」
さて、そんな賀島さんが
どのような経緯でエロアニメの
シナリオライターになったのか?
その辺のお話は長くなってしまうので
また次回に続きます。
「んじゃ、
とりあえず中締めってことで
リクエスト曲いいかな?」
「はいはい、なんでしょう」
「『新巨人の星』のエンディングで
『よみがえれ飛雄馬』を聞かせてよ」
『新巨人の星』は
『巨人の星』の続編として1977年に
制作されたTVアニメーションです。
原作は
梶原一騎さんと川崎のぼるさん。
アニメ制作は東京ムービーさんでした。
「この作品はねぇ、導入からの展開が
メチャクチャ熱いんだよね~」
「星飛雄馬は前作で左腕を壊して
巨人軍を退団してるんだけど、
長嶋巨人が低迷しているのを見て、
代打専門でいいから巨人軍の役に
立ちたいって、再起を決意すんの」
「んで、特訓を続けるうちに、
実は飛雄馬は右利きだったことが
明らかになんのよ。
お父さんの星一徹が投手は左利き
が有利だって、幼少期に無理やり
利き手を変えさせたらしいんだ」
「作品中盤になって漸く飛雄馬は
右投手として巨人軍に復帰するの。
長嶋の背番号3を引き継いでね」
「エンディングは作詞が原作の
梶原一騎さんなんだけどさ。
作品の展開を踏まえた良い曲だと
思うんだよね」
本日も長々とお聞きいただいて
ありがとうございました。
あまり頻繁に更新できず恐縮ですが
よろしければまた
私の話を聞きに来てくださいね。
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