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#8 遠く色褪せたララバイ

エロアニメの神様
04 /19 2022
その日、
賀島さんがアフレコ見学に
行かれると言うので、
私もこっそり同行させて頂きました。

こうした体験は実は初めてではなく
折に触れエロアニメの制作現場を
勉強させてもらっております。

コロナ禍の昨今、
スタジオブースには人数制限があり
以前より収録に時間が掛かるように
なったとか。

収録を終えた帰り道。
都内から1時間半ほどの電車内。
こんな時いつもの賀島さんなら、
私とお話をして下さるのですが、
今日は何だか元気がありません。
ぼんやりしているように見えます。

「……何か気になることでも
 ありましたか?」
私は彼にだけ聞こえるように、
その頭の中に語りかけます。

「……いや、
 大したことじゃないんだけど、
 今日会った演出さんが
 言ってたじゃない
 『エロでも何でもいいですから
  何かお仕事あればぜひ』って」

確かに仰っていました。
その演出さんはエロアニメに関わる
のが初めてで、
賀島さん始め、スタッフ諸氏とも
大半が初対面のようでした。

「『エロでもいいですから』
 ってことは、
 本当ならエロはやりたくないけど
 生活の為に仕方なく……
 ってことじゃない?
 自分のシナリオがそういう人に
 演出されちゃったんだなー
 って思うと……」
「腹が立ちましたか?」
「いや、そうじゃないけどさ、
 ガッカリしたというか、
 ちょっと寂しくなったかな」

「エロアニメの仕事だってさ、
 『どうやったらエロくなるかな?』
 って一生懸命考えてやれば、
 必ず成果は形になって出てくるし
 それで褒められたり
 仕事が認められたりすれば、
 どんどん面白くなるんだよね。
 仕方なく、嫌々仕事をしてると、
 その境地には辿り着けないし、
 そういう意識のスタッフが
 制作に関わるのは、
 作品にとっても本人にとっても
 良くないことだと思うんだ」
「なるほど」

「お金に困った女の子が
 『仕方ないからAVに出ます!』
 って言ったってさ、
 トップクラスのAV女優さんは
 どうやったらエロく見えるのか
 ちゃんと考えてSEXしてるし、
 身体のケアにも余念がないし、
 SNSやイベントでファンサービス
 もちゃんとしてるんだよね。
 『お金が無いから仕方なく』
 っていう意識の女の子は、
 そもそもAV女優さんの事務所
 面接に通らないし、デビューすら
 出来ないんじゃないかな?」

「精神論になっちゃうけどさ、
 エロアニメに向いてる人ってのは
 エロに対して前向きな人なんだよ
 ……ま、これは受け売りだけど」

「どなたの言葉なんですか?」
「今日の収録でも一緒だった
 製作の織賀進さん。
 俺がエロアニメ業界に入った頃、
 イロハから色々教わったのよ」

プロデューサーの織賀進さん。
『臭作』『鬼作』シリーズや
『新体操(仮)』『顔のない月』
『ストリンジェンド』シリーズに
『水着彼女』などなど、
数々のヒット作を手掛けた
ピンクパイナップルの名伯楽です。

また、むらかみてるあき監督、
荒木英樹監督、辰美監督を起用して
監督が絵コンテ・キャラデザイン・
原画・演出・作画監督を兼ねる
スタイルを確立した方でもあります。

『エロアニメに向いてる人は、
 エロに対して前向きな人』
なるほど、
確かに含蓄のある言葉です。

ちなみに、
賀島さんとはかれこれ二十年近くの
お付き合いになるそうで、
賀島さんの結婚披露宴で
乾杯のご発声をされたのも
織賀さんだったとか。

「……ま、でも、
 俺は演出の専門じゃないし、
 こんなこと思っても、なかなか
 他のスタッフには言えないのよ。
 だからこうして、
 神様に愚痴ってるわけ」

賀島さんが何だか元気が無かったのは
そういった事情でした。

「……では、歌でも歌いますか?」
「歌?」
「賀島さんのご自宅にあるレコード
 CD、ビデオ、LDやDVDに
 収録されている曲でしたら、
 私、コピーして歌えますよ」
「へー、神様はそんなことも
 出来るのかー、知らんかったわ」
「はい、どんな曲でもどうぞ」
「じゃあね……
 『ガルビオン』のエンディングで
 『メモリー・ララバイ』
 ああいう抒情的なエンディング
 って好きなんだよねー」
「はいはい、かしこまりました」

『超攻速ガルビオン』は、
1984年放送のTVアニメで
国際映画社さんが制作した
最後のロボットアニメです。

エンディングテーマの
『メモリー・ララバイ』は、
亜蘭知子さんの作詞、
山本正之さんの作曲で、
田中利由子さんが歌われています。


私達が乗っている電車の窓から、
エンディングアニメのような
夕暮れの街が見えていました。

「……上手いね、神様。
 完コピじゃない、すごいよ」
「ありがとうございます」

原曲をアレンジするような感性が
神である私にはありません。
ですので、原曲を忠実になぞること
しかできないのですが、
少しでも喜んで頂けたようで、
何よりでした。

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佐和山進一郎

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