#10 今日はマジメにプロットのお話
エロアニメの神様今回は賀島さんのお仕事、
エロアニメシナリオの実作について
お話を聞きたいと思います。
「んー……
細かく話すと長くなるから
とりあえずプロット制作の
話からしてみようか」
「はい」
「メーカーさんの社内で
新作の製作が内定すると、
原作元や制作会社との
諸々の契約と平行して、
内々にプロット作りや
メインキャラのデザインを
始めちゃうの」
「見切り発車しちゃうんですね」
「ま、ここで作ったキャラのラフや
プロットの素案を原作元への
プレゼンに使ったりもするし、
原作がエロゲーだったりすると、
解析にはそれなりの
時間が掛かるからね」
「【原作の解析】というのは?」
「原作を徹底的に読み込んで
分析すること」
「コミック原作なら本編はもちろん
続編やスピンオフ、前日譚とか
販促用のおまけマンガとか
あれば全部チェックするし、
原作者さんのツイッターがあれば
原作に関する書き込みを見たり、
とにかく原作に関する資料は
全部読み込むようにしてる」
「ほうほう」
「ゲーム原作でもこの辺は同じかな。
本編とは別にHPでダウンロード
できるオマケファイルがあったり、
初回特典でドラマCDがあったり
するとチェックするよ。
シリーズもので続編やスピンオフ、
前日譚のゲームがあった場合、
流石に全部解く時間は無いけど、
大まかな内容だけは把握しとく」
「あと、ノベルやムック本が
発売されてたら買っておくね。
本編以外の資料については自腹に
なっちゃうけど、こういう書籍が
あると結構便利なんだよね」
「便利?」
「ノベルはマルチエンディングの
ゲームを一本の物語に纏める上で
一つの参考になるし、
地名とか学園名とか会社名とか、
細かい固有名詞を確認する時に
調べやすいんだよね。
ムック本は人物の身長・体重とか
3サイズみたいな個人データを
確認したり、ゲームの背景を確認
したりするのに便利だね。
一々データファイルを開いたり
ネットで調べるより早いからさ」
「なるほどなるほど」
「そんな感じで周辺資料を調べつつ
本編のゲームを解いてくんだけど
これが結構時間掛かるんだよねー
うっかりするとシナリオ書くより
こっちの方が手間取るくらい」
「そうなんですか?」
「ゲーム本編の全ルートを解いて、
大まかなあらすじとHシーンの
プレイ内容を記録するのよ。
細かくセーブもしながらね」
言葉だけでは分かりづらいかと
思いますので、実際に賀島さんが
纏めたプレイ記録の画像を添付して
おきますね。
こちらは今年2月にGOLDBEARさん
から前編が発売された
『聖奴隷学園2』の解析資料です。
原作は2021年にLiquidさんから
発売されたゲームソフトです。
「……しかし何と言うか
ゴチャゴチャして読み辛いような」
「いいんだよ、これをどっかに
提出するわけじゃないし、
自分の作業用メモなんだから」
「ご自身でも読めなくなってしまう
ことはありませんか?」
「……たまにある」
この解析資料は
A4サイズで全10枚あります。
赤色で記されたのはセーブポイント
なのですが、トータルで64か所
セーブされていました。
「解析資料の分量は、
原作ゲームの分量によって違うね
エロゲーは価格によってシナリオ
のボリュームが随分違うから」
「こうした解析資料は
皆さん作られているんですか?」
「さぁ……よく分かんないな
これはあくまで我流のやり方だよ」
「さて、こうして【原作の解析】が
済んだところで、いよいよ実際の
プロット制作に入るわけですね?」
「ま、そうなんだけど……
実際のところ、
原作の解析が出来た段階で
全体の大まかな構成は
頭の中に浮かんでるんだよね」
「そうなんですか?」
「ゲーム原作の場合、一週間位かけて
原作を解析するから、その途中で
『このエッチシーン良いな~』
と思うシーンはチェックしてるし、
それを生かすような展開や構成を
考えながら解析してるからさ」
「なるほど」
「解析ってのは手間が掛かるけど
その分、原作の世界観や物語、
キャラクターを自分の中に
沁み込ませることができるのよ。
そうなると、
プロットだけじゃなくて、
シナリオを執筆する時にも
随分と役に立つんだよね」
さてさて、こうしたプロセスを経て
実際に完成した『聖奴隷学園2』
前編のプロットがこちらになります。
「プロットは基本的にA4一枚で
一話が収まるように書いてるね。
その方が見やすいし、
プロットで詳しく話を書いても
あんまり意味がない気もするし」
「どうしてですか?」
「これはエロアニメに限った話じゃ
ないんだけど、
プロットをどんなに細かく書いても
実際にシナリオに起こしていくと
変わってくる部分が絶対あるから」
「ほほう」
「家を建てる話で考えると、
プロットってのはまだ間取りを
考える段階なんだよね。
そこで照明器具とか壁紙の話を
しても今一ピンと来ないからさ」
「なるほど」
「ここまではゲーム原作のお話が
中心になりましたが、
コミック原作のお話も
もう少し詳しくお願いします」
「コミック原作の場合、
同人誌だと一冊分、
商業誌だと読切の一話分が
アニメの半パート、15分くらいに
なる感覚なんだよね
もちろん作品によって細かい調整
は必要なんだけどさ」
「ほうほう」
「商業誌で、単行本丸々一冊が
原作だった場合、もちろん全てを
アニメ化することはできないから
単行本の表題作とか、エピソード
を選んでプロットを構成するよ」
このようにして制作されたプロットは
この後、制作会社さんやメーカーさん、
原作元さんにメールで提出して、
通常なら一週間程度で各所からの
チェックバックが届くそうです。
大抵は同報メールで送られてきて、
情報を関係各所で共有できるように
なっているんだとか。
「……で、大きな問題が無ければ
各所から出た修正希望を踏まえて
シナリオの執筆に入るってわけ」
「時間を掛けて原作を解析して
プロットを作成したと言うのに、
各所からの修正希望に
反論されたりしないんですか?」
「基本的にはしないね。
自分の考えは、提出したプロットに
全部込めたつもりだから。
それを読んだ上での修正希望なら
割とすんなり受け入れられるよ」
「ははあ、そういうものですか」
「もし提出したプロットで、
『こんなこと書いたら、
原作元に怒られるかな~』とか
『これは多分無理だよな~』とか
変に気を遣って、忖度して、
無難なモノを書いてたとしたら、
修正作業をしてても、どっかで
モヤモヤしちゃうんじゃないかな?」
「なるほど」
「これはライターだけじゃなくて、
コンテマンでも原画マンでも
役者でも同じだと思うんだけど、
例え採用されなかったとしても、
自分の意見はキチンと表明して
おかないとね。
その方が絶対上手くなると思う」
「ありがとうございます、
よく分かりました」
「……しかし一つ疑問があります。
先程仰ってましたよね、
『大きな問題が無ければ
シナリオの執筆に入る』と。
シナリオ作業に入れないような
【大きな問題】というのは
どんな事態なのでしょうか?」
「ああ、それはね……」
プロットの修正希望が
ちょっと抽象的な内容だったり、
疑問を提示するものだったり、
俺の独断では修正の方向性を
判断しかねる事態ってこと」
「むむむ……それは困りますね」
「いやまあ、それ程でもないけどさ
面識のあるスタッフだったら
直接電話して意見調整するし、
原作元さんの修正希望だったら、
『こんな感じならどうでしょう?』
って修正案を提示してみたり、
必要ならプロットの修正稿を
出してみたりするね。
あんまり拗れそうな場合は、
関係各所との打ち合わせを
セッティングしてもらったりね。
色々とやり方はあるからさ」
「おぉー……流石ですね」
「プロット作りって言ったら
本当にエロアニメ制作の
最初の一歩だからねー。
なるべくここで躓かないように
時間を掛けないようにしたいなと
いつも思ってるよ」
「時間というのは
やはりそれ程大切なものですか」
「これは私見だけど、
いいアニメが作りたいと思ったら
絵コンテと原画にはなるべく
時間を掛けてあげたいからねー」
「ヘンな話だけど、
同人誌原作のエロアニメで
原作をほとんどそのまま生かして
アニメ化できそうな場合とかは、
プロットを提出した後、
チェックバックを待たずに
シナリオ作業に入っちゃってること
もあったりするよ。
もし修正希望が出たとしても、
シナリオ書きながら直しちゃう」
「なるほどなるほど」
気づいたら今日は
随分長くお話を伺ってしまいました。
あまり賀島さんのお仕事の
お邪魔をしてはいけないので、
この辺で失礼したいと思います。
「今月はさー、仕事はともかく
観たい映画があるんだよねー」
「巷で話題の
『シン・ウルトラマン』ですか?」
「それも勿論だけど、
『マイスモールランド』とか
『マイ・ニューヨーク・
ダイアリー』も面白そうだし
『ワン・セカンド』や
『大河への道』も観たいなー……」
賀島さんは
レイトショーで映画を観るのが
ご趣味なのでした。
ツイッターで観た映画の短評も
投稿されているようです。
機会があれば、いつかそんなお話も
伺ってみたいと思います。
賀島さんが挙げた
今月公開の映画作品の予告編を
最後にご紹介しておきますね。
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